テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.20「やっぱりローテクに帰って来るのだ。」

2002年2月上旬執筆(2002年4月号掲載)

(前書き)

何でもかんでもデジタル化が進むこの世の中。確かにその恩恵たるや、社会の隙間のいたるところにジワジワ浸透しているわけでありまして、当然かく言うわたくしも、多分にその恩恵にあずかっておりますゆえ、やれ講演だ!コンサルティングだ!ということで仕事を頂く機会に恵まれているわけでございます。
その上、半径100メートルしか無かったサービスエリアがWebと出会った途端、一気にワールドワイド化しちゃったのが我がWebラジオFMC。もうデジタル+ハイテクには足を向けて眠れません。
・・とは言うものの、わたし「天の邪鬼」でございます。第一、本音を吐けば、パソコンなんて道具は元々好きじゃございません。どちらかと言うとわたし《ローテクの味方》です。(ほんとか!?)


毎月1回、うち(WebラジオFMC)の若手スタッフのスキルアップを兼ねた実践イベント『FMCトークセッション』というのを開催しています。場所は、FMCスタジオのすぐ近くにある熊本市大江市民センターの2F会議室。(覗いてみたい方はお気軽に!入場無料です。詳しくはFMCのWebサイトをご覧下さい)
 毎回試行錯誤の連続で、それこそいろんなカテゴリーのトークイベントを企画しているんですけれど「ビデオプロジェクターを使った上映絡みのイベント」なんかも当然アイデアとしては上がって来るわけです。ところが、この大江市民センターにはビデオプロジェクターが無い。(普通のテレビはあります)・・否、プロジェクターは「有るに有る」んですが・・。
 どういうことか?と言いますと、1Fで『IT講習会』という森前首相の御落胤が開かれておりまして、そっちの方にプロジェクターを占有されているというわけです。
「ねぇ、1回くらいちょこっとでいいからさぁ貸してよぉ!」と猫撫で声を上げても、硬直化したお役所仕事なんすかね?・・ちっとも色よい返事は出て来ません。
 こうなったら、わたしの旧知の友人である元外務大臣様の名前でも出して「恫喝」してやろーか?とも思いましたが(本気じゃないっすよ・・笑)、ムネ男の真似してもカッコ悪いし、そこはそこ《譲り合いの精神》を発揮して気持ちを納めているわけです。
 でも、レンタル屋でビデオプロジェクター借りると結構いい値段します。無料イベントだから辛いわぁ・・。どなたかタダで貸して下さる方いらっしゃったら御協力お願い致します。貸して下さった方をうちの番組の中で世界中のリスナーにむけて誉めまくります。ホントよ。
 さてさて『IT講習会』ですが、どんなことやってるんだろ?・・と外からガラス越しに覗いてみました。受講生は概ね年輩の方ですね。真剣な表情でパソコンのディスプレーを凝視しつつ、おぼつかない指先を必死に操りながらキーボードを叩いておられます。
 で「何を教えているのかなー?」と、因縁のあるビデオプロジェクターの投影先を見てみましたら『エクセル』が表示されておりました。エクセルは、皆様御存じの通り、マイクロソフト社の表計算ソフトでございます。
「ふーん・・・」非常にクールな視線を送りつつ、わたくし2Fのイベント会場へと去っていきます。
 この「ふーん・・・」には一体どんな意味が内包されているかと申しますと。まず第一に、ここに居る爺さん婆さん(若干名お若い方も居られましたが・・)がエクセルで一体何の計算をするんだろーか?という疑問。第2に、世界標準のソフトと胸を張って言えないマイクロソフト社の標準風ソフトを《至極当然》といった感じで教材に用いるのは如何なものか?という疑問。
 第1の疑問については、早速わたしの番組で取り上げまして「年寄りにエクセル教えてどうするっちゅうねん!」と暴論を吐いたところ、日本国内はもちろん、アメリカ、イギリス、ドイツ、ベルギー、韓国からもリアクションのメッセージが沢山寄せられました。それらのメッセージをまとめると「年寄りにエクセル教えても仕方ないやろ」という突き放した意見がなんと100%でありました。中には「エクセルの使い方を中途半端に覚えたばっかりに、うちの親父は簡単な文章作成もエクセルでやるようになってしまい、使い勝手の悪さに閉口している」というドジ話も寄せられました。
 第2の疑問については、わたしゃ言いたいこと結構ありますよ。なんで官公庁から来るメールって《MSワードの文書》を添付したやつばかりなんだろ?!・・世の中の全てのパソコンにマイクロソフト社のワードが入ってるとでも思ってるんだろーか?という疑問であります。
 ちなみにわたしのパソコンには必要無いのでMSワードは入れておりません。というか、ハナから入っていないのでした。(3年前の旧式Macなんで・・)
 ある意味、VHSが優勢になったにも関わらず「β」に固執していたマニアの方と似ているかもしれませんけど。
 そうそう。添付されている文書をワードを持っている仲間に転送してプリントアウトして見てみたら、ノーマルなプレーンテキストで十分なものばかり。がっくりです。
 ただでさえウイルスの危険を増す《添付ファイル》というやり方に疑問があるっつうのに、その上「マイクロソフトのアプリを使ってね!」という一業者依存キャンペーンを『公(おおやけ)』がやってどうするの!?という健全な思考もございます。
 ま、挙げればキリが無いほど、いろいろと文句をつけたくなるところがあるわけですが、ともかく・・誰かプロジェクター貸して下さい。(どういう落ちの付け方だ?)

そろそろ本論に入りましょうか・・。
 最近、爺さん婆さんを相手にビデオカメラの使い方なんかを教えております。熊本日日新聞の関連会社・熊日情報文化センターがやっている『熊日生涯学習プラザ』というところで開いている講座を受持っております。正確に言うと、決して爺さん婆さんを対象にした特別講座ではありません。集まって来る生徒さんの多くが、残念ながら(大変失礼・・笑)年輩の方が多い!ということでございます。
 IT講習会に集まる爺さん婆さんと同じく、皆さん本当に勉強熱心です。でも覚えは実に悪い。そりゃそうでしょう「海馬」だのなんだの、脳味噌の記憶中枢だって立派に老化してきます。思考は出来ても記憶することが困難になる・・これ自然の摂理です。我が家には齢93才という親父が居ますから、年寄りの脳味噌の状態は大体よく分かります。
 で、教える側からすると「これ位覚えろよ」と言いたくもなりますが、それを言ってはおしまい。彼等のペースを観察しつつ、記憶のインデックスを付けやすいように「印象的な比喩」と「横文字に依存しない用語解説」を心掛けてやっています。(4月から2期目がスタートするので、またまた楽しみですが・・)
 一方、若い連中にも教える機会が増えました。1つは本社が福岡にある『日本芸能教育センター』という芸能学校の熊本校での講座。ちなみにここの総師範は「仮面の忍者・赤影(坂口祐三郎氏)」です。俳優やコメディアンを目指す若者に「演出」の手ほどきをしているんですが、若いだけあって実に飲み込みが早い。熊本でオンエアされているローカルCMを見ると、ここの生徒は引っ張りダコで出演中でございます。そのうち売れっ子俳優とか出てきたらいいなぁなどと思っておりますが・・。あ、それと4月からは、熊本市の『湖東カレッジ芸術専門学校』に新設された放送科でも講師やります。最近センセイ稼業も板について来ました。
 さてさて年輩の方と若者。非常に対照的な2つの世代を前にして考えることは「早いことが正しいわけではない」ということ。年寄りは飲み込みが遅いと書きましたが、飲み込むまでのプロセスには逆にこちらが学ぶべき事柄が数多く内包されています。若者は当然飲み込みは早くて教える側のストレスはその分軽減されていますが、どこか通り一遍になりがちです。
 おや?・・。なんだか昨今のIT事情に似てますね。
 ブロードバンドを啓蒙するCMの多くは「いまの環境ではストレスが溜りますよー!こっちはストレスが無いよー!」と言ってるものばかりです。確かにそうでしょう。うちもブロードバンド化すると共に新サーバを稼動させた途端、今までのが嘘のように一層快適にネット接続が出来ております。でもそれは、本に例えると「単純にページをめくるスピードが早くなっただけで、読んで記憶することまで早くなっているわけではない」わけです。ということはストレスと言う程のストレスではないような気もします。否、ストレスなんでしょう。でも、我慢出来ないストレスでもないと思うんですが・・。
 話が横道にそれますが、わたしが写真のカメラマンでもある・・ということは何回かこのページでも書きました。使っているカメラはいろいろあります。ちなみに最近のお気に入りは『フォクトレンダー/ベッサL』というドイツ製もどきの国産カメラです。フォクトレンダーというのは往年のドイツカメラの有名ブランドですが、この版権を日本の『コシナ』というマニアしか知らないレンズメーカー(かなり信頼と実績があるメーカーです。嘘だと思ったら調べてごらんなさい)が買い取って、新たにマニア向けカメラを製造販売しているのです。
「一眼レフ」とか「レンジファインダー」とか言う用語が理解できる方には割と簡単に説明出来るカメラなんですけど、オートフォーカスが当たり前!というカメラに頓着が無い方には説明するのが実に困難なカメラです。『フォクトレンダー/ベッサL』って奴は・・。
 まず、このカメラにはファインダー(覗き窓)がありません。シャッタースピードの調整も手動です。フィルムの巻き上げも当然手動。レンズは交換できますが、広角レンズ専用です。(何せファインダーが無いんですから当然です・・。あ、この当然の意味がお分かりにならない方は、悩まずに読み飛ばして下さい)
 じゃ、フォーカス(ピント)の調節はどうすんの?てな話になりますが、これが凄い!「見た目と勘」なんです。「大体これ位だろーなー」で合わせます。とどのつまり、超完全マニュアル機なわけでして、それこそ極力機械に頼らないで、人間の思考とセンスにシフトした撮影ができる『超ローテクカメラ(実際は随所にハイテクの恩恵が隠れているけれど)』なのです。
 このローテクカメラ・・実に遣い心地が宜しゅうございます。当然用途によっては使い物にならない場面も多々ありますが、そこはそこ「あ、このカメラじゃ無理だわ」で笑い飛ばせるわけでして、そこにストレスなんてものは存在しません。うーん、正確に言えば存在しないわけじゃないけれど、むしろこのストレスが実に楽しい!というそんな異色カメラなのです。
「そりゃあんた、写真の知識があるから楽しめるんだろ」そんな意地悪な声が聞こえて来そうですね。じゃお答えしましょう。「そうだよ!」・・。勉強したからこそローテクが楽しめるんです。
 ろくに勉強しなくてもプロの技を模倣できるハイテクという環境とは土台が異なります。確かにハイテク環境は便利だし一見バリアフリーな感じもします。しかしそれってあくまで「似非」なんじゃないかなぁ。
 ハイテクのお陰で、音楽制作もめちゃめちゃ楽に何でもできるようになりました。だから若者が気楽にDTM(デスクトップミュージック)で音楽を作ります。けれど物真似パターンの楽曲ばかり。つまんないことこの上なし。
 ハイテクのお陰で、書類制作もめちゃめちゃ楽に何でもできるようになりました。だから若者が気楽にDTP(デスクトップパブリッシング)でフリーペーパーなんぞを作ります。けれど物真似レイアウトの誌面ばかり。つまんないことこの上なし。
 ハイテクのお陰で、映像制作もめちゃめちゃ楽に何でもできるようになりました。だから若者が気楽にDTV(デスクトップビデオ)で映像作品(ビデオクリップなど)を作ります。けれど物真似エフェクトの画面ばかり。つまんないことこの上なし。
・・・ほかにも一杯あるけど、しつこいのでやめます。
 ローテクだってプロの真似は出来ますよ。でもそれを達成するにはどのジャンルに於いてもそうですが「基礎知識の裏付け」が必要です。この「基礎知識を学ぶこと」・・本当は人生を潤す一番楽しいことなんじゃないかな?
 だからIT講習会に集う爺さん婆さんに一言申し上げるとするならば「メールなんかに頼らずに手紙を書きなさいよ手紙を。メールみたいにニュアンスの伝わらない道具に頼らなくてもあんたらには手紙という体温のある情報伝達法があるでしょ。急ぎなら電話かければいいし、FAXだって便利だよ」・・概ねお年寄りは《手紙という、若者の間で廃れつつある文化的基礎知識》をお持ちです。若い奴等は馬鹿だから手紙もろくに書けません。だからITなんて言うヤクザなハイテクに頼るのです・・。(これ暴論だって分かってますよ。分かって書いてるんです・・笑)
「年寄りがパソコン学んで何が悪い!」・・いやいや、なんにも悪くありません。むしろ大変有意義なことです。しかし、もっと素晴らしい知識をお持ちなんだから、ご自分のポテンシャルの高さを理解した上でハイテクに接触して欲しいんです。ローテクで学んだ知識の方が遥かに本物なんですから。
 ローテクついでにもう1つ。南アフリカ共和国の某メーカーが売り出したラジオがアフリカ全土で爆発的ヒットセールスを続けています。それは何でしょう?・・。答えは「ゼンマイ」・・なんとゼンマイ式のラジオですね。ゼンマイを巻いたその反発力で超小型発電機を回してラジオを動かしているわけですが、電気が届かない密林の奥とかサバンナとか、いろんなところで重宝されています。発売されてもう10年以上経っていまして、逆に日本のメーカーが真似して手動発電式ラジオなんかを出しています。なんと言うローテク!でも素晴らしい。
 いつだったか『充電不要!ゼンマイ式携帯電話』って奴を考えまして、これは実用新案が取れるぞ!と画策したことがあるんです。タッチの差で他社に先越されてしまいましたが。むむ残念。でもローテクの確かさを信ずる同志が他にいたんだ!とちょっと嬉しくなりましたよ。ローテクで動かすためのハイテク・・これ結構重要なキーワードかも。興味があるメーカーさんは御一報下さい。他にもいいローテクアイデア持ってまっせ!(笑)


ParaTエッセイ・トップページに戻る

all right reserved"FM-MONDAY_CLUB"kumamoto.japan.2001-2004