テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.17「日本全国啓蒙活動で行脚中…まるで水戸黄門だ!」

2001年6月上旬執筆(2001年7月号掲載)

(前書き)

ITブームと申しますか、猫も杓子もITでございます。お陰さまで私のところにも日本全国の自治体やら商工会などから「講演に来てくれい!」というオファーが多く舞い込んでおります。私は基本的に《土産回り大好き人間》なので、信じられないくらいの悪条件(ノーギャラ&顎足代自己負担・・え、マジ?・・とかね)でなければ、ほいほい何処にでも伺って一席ぶち上げて来ます。ほんとは「食文化」とか「放送文化史」なんかの方が専門なんですけど、時代の流れというものは人の運命を容易く動かすもんですなぁ。
…余談ですけど最近は人気が上がって来ましたんで自然にギャラはアップされちょりますよ有り難や。「これが毎日あったらいい副収入になるんだけどなぁ…ふふふ」な〜んて考えている私でありました。


講演と言いましても千差万別でございまして、大きな会館のステージで数百名の聴衆相手に喋りまくるものから、30名前後の聴衆を前に会話を交えつつ進行していく寺子屋っぽいものまでいろいろです。
で、その中で一番盛り上がらないのは何と言っても『自治体主催で尚且つ当該職員相手の講演会』って奴ですね。業務命令で嫌々聴きに来てるのか知らんけど、例えば50人中、真剣に聴いているのは5名前後。放送芸能界の派手な話題を交えた途端に目を輝かすのが10名程度(若手職員や女子職員特に多し)。残りは全て「鯖目」か「死に体」ってとこですな(圧倒的にオヤジが多い)…。
これはですねぇ、調子に乗って(或いは時流に乗って?)「せめてIT講習くらいやっとかなあかんわ〜」という程度の志しでやっちゃうからでして、まぁ、仕事に直接関係無い部署の人とか「暇があったらパチンコかスナックですばい!」という《脳内α波&エロ情報オンリー類、創造力欠除甚だしい目、純日本オヤジ族》に分類される輩にゃ、まぁ何話したってダメですけんねぇ。
ところが俄然目の輝きが違ってくるケースが2つ程あります。1つは「商工会」など専ら中小の小売店鋪の経営者が集まって主催する講演会。そしてもう1つは高齢者向けの講演会です。
前者の場合、このデフレ不況をどうやって泳ぎきるか?そしてITを使って新たなマーケットを開拓することは可能か?という2大テーマを掲げて講演会に臨まれます。最近は商店街なんかも空き家が目立っておりまして、商店主の高齢化も問題となっております。様々な問題を抱えているわけですから「何とかしなけりゃ!」という危機意識も満タンなんですね。
後者はもう「メモ取りまくり」「質問しまくり」で、年寄りパワー大爆発ですよ。話してて楽しいですね。

さてさて前者の方、商工関係が主催する講演会。呼ばれてみれば私は《第2回IT講演会の講師》というケースが実に多いんです。
で、第1回は?と言うと、大学や専門学校のセンセイ、怪し気なショッピングモール(上前を跳ねるだけで実務は何もやっていない)を運営している似非ベンチャーの社長なんかを個人的コネに頼って開いた講演会だったとのこと。
終わってみれば、話自体はそれなりにタメにはなったんだけど「?」が幾つも残ったそうなんですわ。「?」というのは、言葉が難解過ぎて咀嚼できなかったというのではなく『ITは素晴らしい!あんたもすぐに始めなさい!儲かりまっせ!』という半ば景気のいい話ぶりに「?」が残ったって言うことのようです。
要するに消化不良…《引き続きITへの興味は引き摺っているんだけど、1歩踏み出す勇気が無い》という状態なんですね。

消化不良を何とかしたい人達は、二日酔いで薬局に転がり込むおじさんよろしく、講演専門有名エージェントに「もっと実践的な話が出来る奴は居ないか?多少辛口な奴でも構わん!」というオファーをかけてくるようです。ま、エージェントもそこら辺は心得ているようで(なんたってプロですから)「んなら熊本にParaTという変人がいるから呼んでみましょう」ってなことになるんですわ。
すると私のところにエージェントから「○月×日に○○県○○市に行ける?」と電話がかかって来ます。「OK空いてるよ!」で決まり。数日後には、移動のための切符と日程表が送られて来て「ウソォ!こんなとこまで電車で日帰りかよ」なんてこともありますが、まぁこれで1日丸潰れの余り効率のよくないビジネスが確定するのであります。

ありがとうParaT。いい薬です。
さてさて「大田胃散」みたいな役割を担わされて現れたのが私!…というわけなんですが、消化不良軍団の中に飛び込むのはちょっと勇気要りますよ。なんたって相手はモヤモヤした不信感と中途半端な知識で武装度を高めてますからね。
会場に着いた途端、主催者グループから「センセイもホームページ作りとかを奨励なさいますか?」「本当にITで儲かるとお思いですか?」と半ば疑念に満ちた口調で先制攻撃をかけられることがあります。
「ふん。おいでなすったな!」そう思った私はすかさずこう切り返します。
「電話は皆さん商売のプラスになってませんか?」
…すると大抵皆さんキョト〜ンとしますね。私はさらに捲し立てます。
「電話が寿司屋の出前システムを発達させて販路を広げたんです。寿司屋でなくても注文を受けたり仕入れの際に電話は必要不可欠でしょ。ITを利用するというのはそういうことで、インターネットだiモードだと言ったところで電話と同じくコミュニケーションの手段の1つでしかないんです。ただ、電話は今やほぼ100%の普及率。これでは武器としての効果が薄い。これからのITは先手を取れば武器になる可能性はあります。とは言え道具を使うのはあくまで人間。使う側が愚かならば道具の効果は発揮できません。だからITで即儲かるなんてことは絶対に言えません!」
そう言って笑う私の姿を見て、彼等はもう信者モードに突入です。目も潤んじゃったりして。(余談ですが、私って占い師・新興宗教の教祖・教員としての素質があるといろんな人に言われております…笑)
まずは消化不良の解消に成功ってとこでしょうか。あとはじっくり1時間半ほど演説をぶつわけですね。要旨としては《ITはただの道具。商売で勝つためには商人としての才覚が必要!》という至極まともなことになります。

最近増えてるでしょ『電子商取引』を看板に掲げてコンサルティングを生業としているところ…。うーん、ITのコンサルティングなら分るんですよ。システムエンジニアなどその道の専門家の知恵を取り入れることは重要ですからね。ところがそういうシステムエンジニア系の人が『電子商取引』のコンサルティングをやってるのをよく見掛けます。私は「マジかよ!」って思いますよ。だって「電子」を取ったら「商取引」ですぜ旦那。商いですぜ。物を売り買いするのがどれほど難しいものなのか分かってるんでしょうか?
いやいやシステムエンジニア系が悪いって言ってるんじゃありません。「商売の経験があるかないか」が問題だと言ってるんです。
客のニーズ・ウォンツを見極める、仕入れと在庫のバランス感覚、その他諸々々々…商売をやったことがある人なら分ると思いますが、経営者は極めて微妙な選択を連続的に迫られます。
「じゃ、お前分かってるのか?」って声が聞こえてきそうなのでお答えしましょう・・「分かってますよ」(笑)
いちいち書くとまた自慢話かと底意地の悪い人から言われるので書きませんが、これまでにいろんな店を何軒も作って何軒も潰してますからね。商売の難しさは肌で感じてます。
それが商売経験の無い「理想論」でコンサルティングなんて言われると思わず鼻で笑ってしまう。「そういうコンサルタントさんはITだけやってなさい!」・・・そう言っているのは私の講演を聴いた後の商店主の皆さんでした。

バーチャルよりモルタル。
『クリック&モルタル』という言葉があります。いわゆる「ドット・コム企業」ってやつがバーチャルなバブルに踊らされて、あっと言う間に吹き飛んだ!って話は記憶に新しいと思います。そのドット・コム・バブルが吹き飛ぶ前のまさに絶頂の頃、世の中から馬鹿にされていたのは「モルタル系企業」でした。ITの流れに乗れず、複数の支店や倉庫を持ち、まさにコンクリート(モルタル)に囲まれた前時代的な企業として揶揄されていた《小回り》が利かない企業のことです。日本にも多いですよね。
しかし、今や世界のIT包括市場で物凄い勢いで伸びているのは「IT化したモルタル系企業」つまり『クリック&モルタル』企業なんです。
商取引きの何たるかを知っているベテラン企業が、ITという「道具」を上手に使った時、にわか仕込みのバーチャル企業とは全く質の違う「卓越した技」を発揮するんですね。それを実証しちゃったんです。
私は何年も前から「文科系メディア人」ということを前面に出してメディアやらITやらの世界を泳いでいます。所詮ITなんて只の電気道具に過ぎませんからね。それを利用するのは結局人間なんですもの。

 〜人が人に何かを伝えようとするとき〜
 〜人が人に何かを捧げようとするとき〜
 〜人が人に何かを求めようとするとき〜

そういった箇々のケースをより便利にするためにITはあります…。しかしそこに必要なものはテクノロジーではなく、極めて文科系的なセンスです。
技術が先行することは決して悪ではありません。しかし、技術が人間というものを置き去りにして進んでいくことがあったとしたら、それは間違いなく「悪」です。

最後に辛口で・・・。
九州で行われるIT関連のイベントを見てみると「これって先行技術偏重じゃない?…もっと人間が出て来ないかなぁ人間が!」…って思うことがよくあります。そういうイベントに出掛けるより、日曜日のフリマにでも出掛けた方が余程新しいアイデアを発見することが出来る。…そう思っている私はやはり変人なのでしょうね。

それともう1つ…。ベンチャーは理工系だと勘違いしているおっさん大過ぎ!…。「先端文化」ってやつもITの重要なファクターであることをもっと認識して欲しいなぁ。デザイナーとかサウンドクリエーターとか諸々集めてネットワークを作らなきゃ。あ、福岡はやってるか…。我が熊本は・・・・合掌。


ParaTの余談コーナー
 悪名高い某Web掲示板に散々悪口書かれちゃいました。うちのFMCがWeb放送ランキングで上位にいるのが気に入らない人達の仕業らしい。いや楽しいね!「FMCのランキングは自作自演」「あいつらの番組で紹介されるメッセージも自作自演」「ParaTは、偉そうにテレコムなんとかで講演もやっている」…はっはっは。偉そうなのは事実だけど、自作自演やってるほど暇じゃない。以前筑紫哲也が「便所の落書き」と言ってネットユーザーからの顰蹙を買ったことがあるけど、なるほどこれは便所の落書きだ。
とは言え、この落書きのせいか分らないけれど、書かれた時期のアクセス数がド〜ンと伸びていた。しかも現在もそのまま落っこちない。どうやらむしろPRに役立ったらしいぞと。感謝!

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