テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.15「ハートがないから闇が近付く。ITが喰われる。」
闇社会がIT化する幾つかの理由。
2000年11月下旬執筆(2001年1月号掲載)

(前書き)

 このコーナーでは、遠回しに九州経済界リーダーの方々に対し「もっとITの何たるかを勉強して、地元の若い奴等を育てる手段を模索しなさい!」というケレン味たっぷりの悪口を書き続けております。いやいや悪意は無いんですけどね。書きたくなっちゃうんですよねぇ。…何故って?そうですねぇ、前々から危惧していたある現実がITビジネスとりわけベンチャーに影響を及ぼし始めているからです。うーん普通のサラリーマンやってるとあんまり気付かないことかも知れないなぁ。ちょっと恐いかも今日の話は・・・。なんてね。
 まずは、ある歴史上の人物(ほとんど無名ですけど凄い人です)にスポットを当てて、その人物の業績を通して現代日本のITベンチャーに迫り来る罠なんぞを浮き彫りにしてみることに致しましょう。なんとなくNHKの 「その時歴史が動いた」みたいですね。ははは。


 私がもう8年位かけて書き続けている歴史小説があります。『代官竹垣直温・六万石支配を命ずる』というんですが、栃木県真岡市に居た実在の代官の物語です。どんな人物だったかは、再来年(多分…笑)に出版される自著を御購読頂くとして、非常に大雑把に彼の業績の一部をざぁーっと紹介しましょう。
 賭博、殺人、子供の間引きなどの犯罪が日常化して住民が離散したとんでもない場所の行政官となってしまった代官竹垣は、幕府から御用金1万両を借り受けて両替商に預けます。要するに利子で運用しようということで今風に言えば「財団」を作った訳ですな。
 で、彼は犯罪の取り締まりを強化すると共に、人口減少を食い止めるため、高名な儒学者や僧侶を招いて子供(主に女児)の間引きを止めさせるためのイデオロギー教育を無償で実施します。さらに女児の間引きの横行によって極めて異常な男女比となっている現状を改善するため、日本初の「お見合いパーティ(要するに"ねるとん")」を実施しました。これは前任地の新潟では女児が生まれると遊郭への人身売買が横行していた(一向宗の影響で女児の間引きがなかった)のを憂慮していた竹垣が、売り飛ばされた女性を一括して買い戻し、真岡まで連れて来させて実施したものなんです。
 で、首尾良く互いに気に入ったカップルは「所帯」を持つわけですが、なんたって物凄く疲弊してますから生活資材も何にもないわけです。そこで竹垣は生活用具から農機具までドーンと貸し出します。殆ど無償でです。さらには子供が産まれれば祝い金まで出すというサービスを実施。
・・と、ここまで書けば「水戸黄門には悪代官しか出て来ないけど、いい代官も居たんだね」くらいのことはお分かり頂けるでょう。また「まるで現代のベンチャーキャピタルの原形だね…」なんてお気付きの方もおられることでしょう。
 でも私思うんですわ…。ベンチャー支援事業(特に九州の)なんて竹垣から比べると屁の突っ張りにもならん!ほんとそう思ってます。すいませんねぇ。

・ベンチャーヒジネスを模索されてる方をサポートします。
・資金援助致します。
・取引先を見つけるお見合い会を開きます。

…これって最近行政主導なんかで各地に設けられいるベンチャー育成の財団などの組織のパンフに記されている文言の幾つかです。この程度のことはですね、二宮尊徳が竹垣の数十年後にやってるんですな。じゃ竹垣は何が違うかと言うとズバリ《ハート》です。
「む?ハート?なんだ種田も青いこと言うなぁ〜」と今この瞬間に思った貴方。失格です。

『ハートが無くて人が育つか!喝〜!!』

 そうです。竹垣にはハートがあったんです。人の心を読み取る能力に長けていましたし、実行力も備わっていた。
 で、何がどうだったのかと言うと、彼は《情報》を集めまくったんです。どこの集落の誰が所帯を持った。子供が産まれた。病気になった。新しい作物を作っている。水不足で困っている。など自らが治める地域の事細かな情報を徹底的に集めていました。
 当時代官所(本当は陣屋と言う)には2名の手代(代官を補佐する役人)が居るのみで、マンパワーの不足は著しいものがありましたが、そこはそこ住民ネットワークを見事に構築して素早く情報を集めることが出来ていました。
 情報を集めるだけ集めて何もしないのは現代日本人の顕著な特性の1つですが、竹垣は全然違いました。恐らくコミュニティの何たるかを肌で感覚的に捉えるセンスを持っていたのでしょう。

 こんなエピソードが残されています…。ある農夫の所帯に子供が産まれました。竹垣はその家に素早く手下を遣わし、祝い金を届けさせたのでした。子供が産まれたことすら代官所に知らせていないのに祝い金が届いてしまったわけですからそれはもう凄い驚きであったでしょう。ましてや封建時代です。身分制度も色濃かった頃のことです。いくらお代官様が「子供が産まれたら祝い金を出す」と言っても、恐れ多くて誰も取りに来ないであろうことを竹垣は最初から認識していました。だから自分で情報を集めて代官の方から届けさせるシステムを構築したのです。この見事なサービスに《ハート》を感じない人は恐らく居ないでしょう…。

 現代の行政システムにハートを感じていないという人はヨーグルトの乳酸菌くらい存在していますが、ベンチャー支援事業にハートを感じていない人もパックの中の納豆菌くらい存在しています。

《金も出します。コネも世話します。ベンチャービジネスでもやってみない?》この程度のうたい文句を掲げる支援組織に大金持ちはドーンと資金を出しちゃいます。そうすることでITを支援している満足感に酔えるとでも言うのしょうか?うーん、悪い酔い方ですね。
《将来性もあり、なおかつ援助を必要としているものを自ら捜し出し、そこに押し掛けて親切の押し売りを気持ち良くやり続ける。それが俺達のポリシーさ!》…これくらいの根性がなければベンチャー支援事業なんてやっちゃ駄目です。

 ちょっと分野が違いますけど、アメリカでは地震や山火事など大規模災害が発生した際には、家を失って呆然としている住民のところに素早く現れて「この金を好きに使いなさい!」とビックリするほどの現金をドーンと手渡す行政機関があります。被災者にとっては涙が出る程心強いものでありましょう。
「被害を受けた方は役場までお越し下さい。100万円を限度に一時的に融資することもあります」なんて回覧を回してしまう日本国…。ハートの無さでは先進国でもトップクラスと言えるでしょう。
            ◆
 専らベンチャー支援事業にハートがあまり感じられない我が日本国に於きまして、じんわりとハートを見せつけてくる連中がおります。…《闇の社会》です。もっとはっきり言いましょうか?《暴力団》です。
 静かではありますが、確実に侵食の度を高めています。
 警察や司法は自治省、法務省。薬物関係では厚生省…。不正輸出入では大蔵省かな。そして遂にIT分野では我らが郵政省(省庁再編で総務省)がマル暴対策を考えなければならない局面が到来しようとしております。(笑)
 厚生省の麻薬Gメンは拳銃携帯と場合によっては発砲が許可されておりますが、今に電監Gメンも拳銃携帯でアジトの一斉捜索なんてハードボイルドな場面が出てくるかもしれません。でもホントそんな時代になりつつあります。

 某音楽配信ソフト会社の経営者が犯した犯罪がIT企業と闇社会との結びつきを図らずも浮き彫りにしておりますが、彼等闇社会が自らの資金源として最も熱い視線を送っているのが今やITとりわけベンチャーでございます。
 薬物や銃器など違法もしくは違法スレスレなものを扱うわけではなく、女性団体を敵に回す風俗産業や法定金利を超えた怪しい金融を営むわけでもなく、増してや成人向けの違法エロサイトを運営するわけでもなく、至極まっとうな堅気のITビジネスに資金を提供し、その利で食っていこうと《真面目》に考えているのです。
「なんだまともな仕事じゃないか」・・とお思いになられるでしょう。そうです。まともなんです。表向きはね。
 なんか男性向け週刊誌の記事みたくなってきましたが、実際多いですよ。暴力団直系だけでなくても企業舎弟を経由した出資形態とか、企業舎弟が出資した会社が出資して出来た介護機器開発なんかを扱う超堅実ベンチャーとか。私事情通ってことでいろいろ情報入って来るもんで。(笑)
 しかし問題は大きいんですわ。奥様は魔女のオープニングナレーション風に言いますとね《こちらの名前は組長、こちらの名前は若頭…。この2人はごくごく普通の経済活動を志し、ごくごく普通のITベンチャーに出資しようとしています。でも1つだけ違うことは、彼等は《ヤクザ》だったということです》
 そうなんですよ。チンピラ級の下っ端を除いて、上級ヤクザの皆さんは一般市民と次元の異なるイデオロギーを持って生活してます。ITで軽〜く仕事しちゃおう!って言う若造とは所詮生きる道が違います。だから軋轢が生じ、トラブルに発展しちゃうんです。でも彼等はハートの使い方は実に巧みです。だから尚更恐い。日本のITが闇社会に牛耳られないと保証できる人がいたらぜひその方策を聞かせて頂きたい。
            ◆
 15年くらい前に、ある雑誌で体験取材記を連載していた際に『組長密着』という物凄い企画をやらされまして、関東地方の某有名組長と3日間寝食を共にするという、それはもう《超ディープ》な取材を敢行したことがあります。
 その際、この組長氏は「合法なシノギ(仕事)が一番なんですよ」と力説していました。調子にのった私が(恐いもの知らずの馬鹿なもんで…笑)「だったら暴力団なんかやめて、いっそ普通の会社にしちゃったら?」と言ったところ「いずれそうなるでしょう。でも看板は降ろさない。これは我々の生き方の問題なんです」と凄味のある視線で笑った姿がえらく印象に残っています。
 ある種、宗教的なものがあるんですね彼等は…。ITがオウムへの資金源となることを忌避する動きは顕著だけれども暴力団への資金源に既になりつつある危険性があまりアピールされていないことに私ゃ疑問を感じます。
            ◆
 誌面スペースがなくなってきたので、そろそろまとめましょうか…。

 ハートのないベンチャー支援があまり効果を発揮していないその裏で、羊の顔をした闇社会がとってもハートフルに接近中です。善良かつ無垢なITベンチャーは彼等の表向きな善意だけを信じて知らないうちにその毒牙に侵食されていきます。そして秩序は混沌へと突き進みそのうち日本のITは瓦解していく・・・。これが単なるフィクションだったら面白いですけどね。前述の某音楽配信ソフト会社の上場記念のパーティがえらく凄かったのを記憶している人も多いと思いますが、既にここまで来てるんですよ実際は・・・。
 これだけは断言出来ます。竹垣直温のハートフル政治は《良価が悪価を駆逐する最大にして最後の武器》です。

 今回こんな話をしようと思った種明かしをしますとね、私共『WebラジオFMC』に出資したい!という実にアドベンチャー!な会社が毎週2件ほどオファーかけて来ます。九州以外の会社も多いですね。ちなみにうちは出資者募集とかのPRしてませんからね。もっとも本当にFMCのスタンスとかカラーを認知した上で協力してくれるという篤志家には心を開きますけど(笑)、どこのどなたとも分からん方からお金を頂こうなんて考えちゃいないです。
 で、出資しようって言う企業の7割は「へぇーなんでまたこんな凄いところが」みたいな名の知れた優良企業なんですが、私ゃ九州のしかも熊本にへばりついてやっている以上、地元ッティが感化されて気持ち良く金出すまでテコでも動かん覚悟でやってますから(と言いつつ、いつでも前言撤回する準備はあるのだ…笑)少なくとも、FMCまで出向いて来て三顧の礼とまでは言わないけれど、直に挨拶しにくる奴でなければ相手にしないというそれはもう崇高なポリシーがあるのです。
 あ、そうそう残り3割の方ですね…。これ、暴力団系もしくは企業舎弟系です。あっさり言い過ぎましたか?(笑)
 前述の通り事情通なんですぐ分類出来ちゃうんですよ私。
 あと、SOHOとかでそろそろ名前が売れてきたところなんかにも積極的かつハートフルに彼等はまんべんなく羊の顔を見せまくっていますよ。
 これは感覚的なものでデータをとったわけではないので正確な表現ではありませんが、九州のIT特にSOHOなどのコンテンツ系ベンチャーはかなりターゲットになっています。皆さんマジでお気をつけ下さい…っちゅうより、ベンチャー支援事業自体がもっとしっかりやれ!っちゅうことです。


ParaTの余談コーナー
 民放TVで全国一斉に放送される「放送広告の日」の特番で、もう20年近く前ですが、久米宏と荻昌弘(評論家・故人)の対談があって「テレビ制作者は暴走族だ」という話がありました。徒党を組んでダァーっと突っ走って番組を作っていくというところからの表現だったんですが、観ていてかなり納得しちゃったですよ私…。
 当時の番組制作クルーって直線的なヒエラルキーでしたし、親分肌のプロデューサーとかいました。でも今やサラリーマン化が顕著に進み、硬直化かつベルトコンベア式のヒエラルキーって感じですから、責任の所在とか徒党としての結束力が実に弱くなってしまった。
 昔ならプロデューサーがADを殴り飛ばすことは珍しいことではありませんでしたが、最近ではキレたADがサラリーマンプロデューサーを殴り飛ばすことが頻発中とのこと。益々徒党は烏合の衆へと堕ちていき番組の訴求力も比例して堕ちていく。アナログTV時代の終焉なんでしょうかねぇ。ちなみにWebなどデジタルコンテンツの世界では、暴走族的突っ走り型のチームが元気です。また新たなセオリーを見つけたような気がしています。
            ◆
「執筆後記」
 このページって社団法人九州テレコム振興センターが発行する「テレコム九州」っていう小冊子に連載されているんですけど、ちなみに原稿料は図書券です。(笑)
 知り合いの編集者に言ったら「じゃ、その3倍出すから書いてくれ」と言われたことがありますが、3倍って言ってもいつもギャラの10分の1じゃんか。やだよーん!

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