テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.8「Web商店を繁盛させる幾つかの法則」

1999年2月中旬執筆('99年4月号掲載)

 Web(インターネット)でお買い物!…。Webの本家アメリカではすっかりお馴染みのショッピングスタイルなんですが、我が国では甚だ残念ながら殆ど一般化していません。
 日本でWebがお買い物のツールになっていない幾つかの理由を挙げてみますと…ま、いろいろありますがまず「通信コストが高い」次に「クレジットカードや電子決済が欧米ほど普及していない」そして「マスコミがWebの危険性などネガティブキャンペーンを張り過ぎる」などなど…結構厳しい状況であることがなんとなくお分かり頂けることでしょう。…とは言え「Webストアの開店にはやはり相当の覚悟が必要ですね」なんて、そんな当たり前の解説は「多事争論」か「太郎のコラム」に任せておけば良いことでありまして、私が書く以上、核心に触れた部分をグサッ!と突き刺さなければ面白くないですわねぇ。というわけで・・・
 それでは申し上げましょう。日本でWebショッピングが普及していない最大の理由はコレだ!


「プレゼンテーションが下手すぎる!」

 そのココロは何か?…今回はネットの技術論よりも商人(あきんど)としての心得の方からWebストアを成功させる秘訣を探ってみようと思います。あなたもWebストアの社長になれる!かもよ…!!(by宮尾すすむ)

 たまに「◯◯村がホームページ開設。地元特産品を世界へ!!」なんていう見出しを新聞で見かけますが、私はその度に「あーあ、また自殺行為だなぁ…」と嘆き悲しみながら朝食を頬張るのです。
 だって、売れないっすよ。ホームページ作るだけ無駄ですよ。後でがっかりするだけっすよ。(ちょいとはっきり言い過ぎましたでしょうか?…笑)
 田舎のわけの分からん特産品…あ、失礼。◯◯◯漬とか◯◯◯味噌とか…なるほどそれぞれ素晴らしい風味や品質を誇る逸品なんでしょう…。しかし、Webで味や個性をダイレクトに伝えることは非常に困難です。増してや小さいサイズの256色GIF画像とわずか3行の商品説明だけで物を売ろうなんて、よくもまあやれたもんだと感心するくらいでありますよ全く。そういう点ではWebはまだまだ不自由なメディアなのであります。高いポテンシャルがあるのは言うまでもありませんが、現状での過信は怪我の元です。
 旧知の地元出身者相手とか、その味や特徴が広く知れ渡っている有名商品ならいざ知らず、世界中を広ーく被う蜘蛛の巣(Web)でそんな貧困な情報のみでお金を落としてくれる物好きは、稀人か粋人あるいは本当の奇人なのかもしれません。
 お見物程度にホームページの隅っこに商品を置いているならまだしも「ショッピングモール」なんて言い張りながら、その実、ニッ◯ンのカタログショッピングよりも遥かに劣る内容!で堂々と商売をしようなんて言うところも最近よく見かけますが、はっきり言って「厚顔無恥」の愚行に過ぎません。花登筐の「どてらい男」「細うで繁盛記」「あかんたれ」の何れかを読んでから出直すことをオススメします。(ちなみにアパッチ野球軍はNGです)

 実は私、趣味が高じて雑貨屋を熊本市内で半年間経営したことがあります。丁度バブル全盛期の頃でしたが、よく売れました!(大して儲かりませでしたが…笑)
 店を出す発端となったのが、東京北青山の大層お洒落な雑貨屋で偶然見つけた1枚の洋皿なんです。聞けば世界中の著明な建築家がそれぞれの個性を発揮してデザインしたシリーズだと言うのです。瞬間「これだ!」と思いましたね本当に…。
 その頃から無茶な人生まっしぐらな私は、何と1週間後には熊本での独占販売の権利を得てしまう!という大胆な行動に及んでいた次第です。その2週間後には、店の内装工事、配線工事を全部私と数名の弟子とでやっつけてしまいまして、めでたくオープンの運びとなったのでした。ここでお気付きの方もおられるでしょう…フジテレビ系で昨年放送された「お仕事です!」というドラマと全く同じストーリー、なんと!現実に展開されちゃってたんです。
 モノを作ったり仕入れたり、そしてそのモノを誰かに売る行為…それを商売と提議するならば、売る側はモノに愛着や自信がなければなりません。少なくとも私が雑貨屋を開く際に最大の動機となったものはその1枚の皿への愛着と他人にその素晴らしさを伝えたいという衝動からでありました。重要なのはココです。愛着や自信だけではダメなのです。「素晴らしさを伝えたい!という意欲」が必要なのです。
 そこら辺に転がっているWebストアにこういう動機が感じられるものがあるでしょうか?いやー、一部を除いて殆どありません。

さらにParaT非繁盛記は続く
 私の店で売っていた皿は1枚1万5千円、大皿はなんと3万円です。マグカップですら2800円してましたので熊本でもトップクラスに高級な店です。でも内装工事には10万円位しかかかっていません。何たって手作りですからね。でも自分で言うのも何ですが、メチャメチャCoolでありましたよ。なんたって地元の雑貨屋のオーナーさんが連日押し掛けるほどの謎の店でしたから。(半年で畳んでしまうのも実は策略だったのですが…)
 皿ばかりではありません。ステーショナリーなども私が選んだ自信満々の商品をずらり並べてお客に買ってもらうのを待っていました。その中の1つ、絶対の自信があった商品「不思議な国のアリスのキャラクターを模した大理石製のチェス(5万円)」のエピソードをちょいと御紹介しましょう。
 恐らく九州でこの商品を置けたのは当初うちだけだったはずですが、ともかく素晴らしい商品でしたので、私はライティングとか展示するポジションとかに相当気を配りまして、ともかく「どーだ!」って言う位の気迫で鎮座させました。
 連日押し寄せる女子高生達は「カワイイー!」と歓喜の声を上げてアリスのチェスを取り囲みますが、如何せん5万円也です。とても歯が立ちません。
 するとある日。このチェスを1時間ほどじーっと眺めている青年が居ました。そんな人物は珍しくも何ともなかったので、別段驚く程のことではなかったのですが、この青年はまた翌日も現れ1時間ほど見つめて帰ります。そしてその翌日も…。
 最近は、ボキャブラリーの単一化が進み、真剣な想いと憂いを持った人物をも「ストーカー」だと揶揄する貧困な精神を持った愚者が多いご様子ですが、彼はそんな浅薄なカテゴリーに勿論含まれません。
 4日目。私はこの商品が持つ魅力を十分に引き出す演出を既に行っています。勿論自信満々です。余計な接客をする必要もないと考えていましたので、これまでの間、あえて青年には会釈以外何もコミュニケートしていませんでした。…そして予想通り、彼は現れました。

「このチェスを下さい」
…そう言われた時、実際鳥肌が立ちましたね。売り手と買い手のコミュニケートが1つの商品を介して成立した瞬間なんです。これは凄いことなんですよ。
 聞けば、このチェスは恋人の誕生日プレゼントにするんだそうで、じーっと眺めている数日間、様々なことに想いを巡らし、言ってみればプロポーズすることを確信するプロセスだったようです。
 さてお立ち会い!品物が良く、そしてその良さを際立たせる演出。これがプレゼンテーションの基本中の基本なんです。そこには本来言葉なんてものは不要です。商品自体が一種のメディアとなってるようなものですから。
 とは言えこれは環境や条件に恵まれたときの話です…。じゃ、Webではどうでしょう?説明不足を補足する何かが逆に必要なのではないでしょうか。そしてバーチャルな空間の向こう側に存在する「実物の商品」を確実にイメージさせる工夫というものが必要不可欠に思えます。
 テレビショッピングを見れば何となくそれが見えてきます。あれは啖呵売(たんかばい)のカテゴリーに入ると思いますが、同じ商品でも説明する人の話術や表現力によって売り上げにも大きな差が出てくるそうです。
 わざわざWebみたいな海の物とも山の物とも分からない新参メディアを介して購入しようという有難い人物を如何に引きつけるか?…尚且つ購買アクションまで持っていくことが出来るか?…難しいようで簡単。簡単なようで複雑…セキュリティなどのリスクという不安要素もありますし、成功させるためには幾つかのハードルを越えないといけないのです。でもそれがパイオニアの宿命というものでありましょう。頑張って工夫するしかないのです。

「岸本屋」を見習う。
"http://web.kyoto-inet.or.jp/org/easy888/"
 京都の「岸本屋」…。かなり有名なWebストアです。売っているものはTシャツを中心とするカジュアルウェアなど。実はこのサイト…日本でも稀な「成功したWebストア」の1つなのです。
 優れた特徴を幾つか並べてみますと「アイテムの数が豊富」「商品説明に説得力がある」「商品の質が良い」「価格が安い」「在庫の有無が正確」「サイズやカラーの選定が簡単」「注文方法や送金手段が幾つも用意されている」「初めて買う人でも完全後払い」「Webストアの中でも古参の部類に入るので信用度が高い」…などなど、魅力イッパイのサイトなのです。
 実際私も何度か購入してますし、WebラジオfmcのオフィシャルTシャツもここの製品です。
 昨年、熊本市近郊で配付されるフリーペーパー「熊日すぱいす」で、私の企画で初心者向けインターネット講座が特集されましたが、その際に生徒役の若奥さん(全くの初心者)に実際購入するところまでチャレンジしてもらいましたけれど、何の問題もなく容易に購入できましたので、ビギナーにとっても優しいサイトと言えます。
 まずは岸本屋ホームページを見て頂くのが一番。私がオススメする理由も納得して頂けると思います。何故、全世界送料無料なのか、後払いなのか、値上げした理由は何なのか、返品された商品はどうなるのか、洗濯の方法は、…うるさいほどに顧客の疑問符に答えようとする真摯な姿勢が見えて来ます。支払い方法にしても様々な試行を繰り返しつつ、これまた顧客にとって最もリスクの少ない方法を模索しています。これらどれをとってもWebストアの手本と呼べるものです。それを端的に表す言葉が岸本屋ホームページ上にありましたのでちょっと御紹介しておきましょう。

「お客様のリスクはどんなことも解決していきます 」
お客様の立場でお買い物に対しての不安なんて
あってはならないことと考えます
決済、送料、発送方法など、お客様にリスキーと
思われるようなことは
どんなことでもすぐに改善、最善の方法を常に考え
いいことはすぐに導入し実行していきます
ご意見、ご進言心からお待ち申し上げております

…これが出来るのなら、日本流Webストアとして何とかやっていけるかも知れません。
否、きっとやれます。


Webストアは概ね通信販売のカテゴリーに含まれます。
実際に開店する際は、訪問販売法等の法令に従い適切なシステムを構築する必要があります。
例えば下記のような表示がホームページ上に明記されているサイトは概ね良心的な部類に入ります。(参考まで…)

「通信販売の法規(訪問販売法)に基づく表示」
1.販売業者の社名
2.運営統括責任者の役職と氏名
3.所在地
4.商品代金以外の必要料金(消費税、送料、振込手数料などを明記)
5.申込の有効期限
6.不良品の交換あるいは返金方法
7.販売数量(限定商品なのか等)
8.引き渡し時期
9.支払い方法
10.支払い期限
11.返品期限
12.返品送料


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