所謂日常日記
榎田信衛門「鯨のしっぽ」
本を読む、テレビを見る、
街を歩く、田舎を彷徨う、
物を喰らう・・。
日々の出来事の中で、
一瞬「海馬」に蓄積された記憶を
このページに綴っていこうと思う。

「海馬(hippocampus)」
大脳の古皮質に属する部位で、欲求・本能・自律神経または記憶に関する中枢器官。


第068回

7月20日の日常から・・

朝靄(もや)が漂っていた。
静かに、だが確実に決戦の時は近付いていた。

天気予報は《雨》・・この作戦には最悪な天候である。

そう、作戦名は・・

『夜明けの農薬散布』(クールなネイミングだぜ)

※ではここからドキュメンタリータッチでお送りしよう。

ParaTは、前夜からWebで《天気概況》を見つめていた。
そして、結論が出た。

「天気は9時過ぎまで持つ。
夜明けに攻撃をかければ、
敵は薬剤に3時間は晒されることになる。
チャンスは今しかない!!」

皇国ノ荒廃コノ一戦ニアリ総員奮励努力セヨ。
ParaTの心の中に『Z旗』が高々と掲げられた。

『スミチオン』と『マラソン』という2大殺虫農薬を混合した
その名も『スミソン』(本当です)の封が切られた。
遂に大量殺戮最終兵器の登場である。

1000倍希釈で十分に効果を発揮するこの農薬。
極めて危険である。

なんたって、有機リン系農薬である。
コリンエステラーゼ(自分で調べろ)の活性を阻害するのである。
と言う事は・・神経末端のアセチルコリンの濃度を高め、
コリン作動性の毒性をもたらす薬物なのだ・・わかる?
(実はよう分かっとらん。だがヤバそうだというのは想像出来る)
ともかく毒ガス『サリン』の親戚なのである。毒薬である。

一番安い透明ビニール合羽スボンとゴム長という、
実にヤル気マンマンの姿で、ParaTは戦場に現れた。
右手には『スミソン入りスプレーボトル』
左手には『フマキラーA』・・。
なんと猛々しい御姿であろう。

「シュッ」
「シュッ」

右手のグリップを握り絞める度に、
白色のオドロオドロしい乳液が散布されていく。

「シュー!」
上空から襲い掛かる空軍(ヤブ蚊)に対する迎撃として
フマキラーAが噴射される!

静かに、ゆっくりと進撃するParaT軍。
遂に敵本拠地『犬小屋』に侵入した。

だが、敵の攻撃は思いのほか少ない。
先日の粉末殺虫剤が効いたのであろうか。

しかし、今回のParaT軍は冴えていた。

「敵は粉末殺虫剤を避けて、草むらに移動し、潜んでいる!」
・・ノミの行動パターンを十分研究した見事な判断である。

2メートルほど離れた草むらに移動。
その時である。
潜んでいた大量のノミ軍団が一気に襲いかかって来たのだ!

だが、ビニール合羽とゴム長という堅固な防御を
突破出来る技量は彼等には無かった・・。

ちなみにノミという奴は、
唇の部分に鋭利な刃先をもった牙を数本持っており、
獲物の表皮にしがみつくや否や、
キツツキのように皮膚を突き傷つける。
そして流れ出た血液を吸い取る。
なかなか攻撃的な奴なのである。

しかも突く際に唾液を注入する。これが痒さのもと。
掻きむしった後、勝手に血が流れ出るようになれば、
それこそノミは楽勝で食料を獲得出来るわけだ。
その上、血を吸えば吸う程《増える》・・。
例えば10匹のメスがそれぞれ毎日10個ずつ卵を産むとしたら・・。
想像してごらん。ほとんどホラーだよ。

ノミは食事を1日に24回程度摂ることになっている。
つまり1時間に1回。
物凄い食欲と言える。

そんな彼奴等を、このように大発生した今、
例え屋外と言えども放置しておくのは極めて危険である。

ParaT軍は、冷静沈着に風向きを読みながら噴霧を続ける。
猛毒『スミソン』の前では、
まさに《飛んで火に入る夏の虫》であった。
バタバタと死んで行くノミ軍団・・・。

ところでわたしゃ、農薬とかは基本的に反対である。
当然、化学調味料とかも好かん。
かと言って《自然派偏重の現代社会否定勢力》ではない。
グルソたっぷりラーメン屋で『替え玉』をすることも出来るし、
極めて柔軟な思考回路を持っておるのよ。
(それぞれの危険度はよう分かっておる)

「だがな、やる時はやるじぇ!」
「犬の弔い合戦じゃい!」
「死ねや、死ねぃ!」
・・・まさに鬼神の様相であった。
(ドラマ化する場合は、ぜひ主演・竹内力でお願いしたい)

そして1時間が経過した。
最早、ノミの反撃は認められなかった・・。

犬小屋と草むらは《死のゾーン》と化していた。

「状況・・終了!」
まるでレギオンとの戦いを終えた自衛隊の司令官のような気分である。

「うわ、咽が痛ぇ!やっぱ農薬はヤバいじぇ」
急ぎ朝風呂に向かう男ParaT・・。

ドキュメンタリーはこれで終り。

ここで『ゲゲゲの鬼太郎』だったら、
《虫たちの勝利の歌がこだましていた》で終るところだが、
虫たちにとってはまさにジェノサイドである。
当然そんな歌はこだましない。

所詮『農薬』なんてものは、
使用する側(つまり人間)にもいろんなダメージがあるわけで、
ろくなもんじゃない。

でも『便利』だ・・。

あんな大発生を前にしてだぞ、
《自然素材のハーブエキスで追い散らしましょう》
な〜んて悠長なことをやってられるかい!

でもなぁ・・
この『ろくでもないモノ』と、
いわゆる『便利』というやつの狭間で、
現代人つうものは、
果たしてどっち側にいるのが正しいことなのか?
ちょいと悩んでしまうわけだ・・。

・・9時過ぎ、予想通り雨が降り出した。


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