所謂日常日記
榎田信衛門「鯨のしっぽ」
本を読む、テレビを見る、
街を歩く、田舎を彷徨う、
物を喰らう・・。
日々の出来事の中で、
一瞬「海馬」に蓄積された記憶を
このページに綴っていこうと思う。

「海馬(hippocampus)」
大脳の古皮質に属する部位で、欲求・本能・自律神経または記憶に関する中枢器官。


第051回

6月13日の日常から・・

東映『陽はまた昇る』を観て来た。
率直な感想を申し上げれば・・

《原作良し/演出ダメ/演技濃い》
・・まぁ、平均水準の邦画でしょ。
中居の『模倣犯』り500倍は《観れる映画》ではあった。

でね、この映画を観る前に書いた文章があるので、
今回はそれをお読み頂きたい。
(手抜きと言うな!・・笑)

※下記の文章は、有料メルマガ『週刊ParaT』の
2002年4月18日号です。


■「いまさらVHS」

NHKの『プロジェクトX』って見てます?・・。いろんな
先駆者の苦労話をドラマチックな演出で見せる似非ドキュメ
ント番組(だってホントだもーん)です。TBS系で過去に
放送していた『コロンブスのゆで卵』の企画のキモをそのま
んま頂いちゃったパクリ番組であることは個人的には有名な
んですが、まぁそれはいいとして…。

東映が『陽はまた昇る』という映画を作ってます。『プロジ
ェクトX』で放送されて話題を呼んだ「VHSを作った男た
ち」(だったかな?)をベースにした劇映画です。

かねがね私は申し上げておりますが《歴史はメディアがねじ
曲げます》ご注意下さい。

例えば、何も知らない少年が持つ大大名「前田利家」という
イメージは「唐沢利明」に偏っていることでしょう多分・・。

坂本竜馬なんてどうでもいい奴のファンが武田鉄也なんかを
筆頭に山のように存在するという奇妙な現象も、これ統べて
司馬遼太郎ならびに彼の書物を流布し続ける出版者及びその
取り巻きということでひと括りに出来ます。

結局は、メディアが伝えた「イメージ」が、それが実像であ
ろうが虚像であろうが、それに接した人々の心の中で勝手に
1人歩きしちゃうということですな。

さて、VHSでございます。『プロジェクトX』を見た者の
1人としてはですねぇ…「うぇ?本気かぁ??」というかな
り疑問系の印象が強かったですよ。

当然の事ながら、ライバルとしてSONY軍団率いる『β』
が登場します。もちろん、《先発のβを追い越せ追い抜け引
っこ抜け!》というお話ですから、あからさまではありませ
んが役柄的には《ヒール》っぽい役柄ですね。

ところがβっつうのはただのヒールではないわけです。強い
んです。ニクイ奴なんです。
誰が何を言おうとも、絶対にVHSごときに負けるような技
術水準ではなかったわけで(現在でもそうですが・・)、要
は『販売戦略での失敗』という「技術屋ではなく営業屋と広
告屋の失策の連鎖」なんでありまして、むしろこっちの方に
番組企画のキモを持って来なければならないのに、無理に技
術屋のドラマにしちまったもんで実に始末が悪い。

それを今度は映画化するわけですから、ますますVHSの神
格化が始まってしまう。こりゃイカン!ちゅうのが今回のお
話です。

超簡単な話をしましょうか。
なんでβって言うか知ってます?・・。答はねぇ「ベタだか
ら」・・。ホントだよ。

ビデオテープは、高速回転する円筒形のビデオにまとわり付
く感じで走行していきます。その時ヘッドはテープに斜めに
1筋1筋信号を記録していくんですが、これをヘリカルスキ
ャンといいます。さてここでの差なんですが、1筋1筋に間
隙(かんげき)要するに《すき間》が出来ちゃうのが普通の技
術。密接させて、それこそベタぁと並べて記録するのが一枚
上手の技術。今では密接当たり前!多層記録当たり前!なわ
けですが、その先駆者は間違い無く「β」だったのですよ。
つまりベタぁと密接させて記録するからベータなんですわ。
これホント。

では「すき間有りとベタ」この差はどこに出たのでしょうか
?・・。最も顕著に現れたのは「テープのサイズ」ですね。
VHSもβも同じ2分の1インチのテープを使用していなが
ら、βの方がコンパクトに出来上がっています。そりゃそう
でしょう。すき間を作って記録しなけりゃならないVHSは
当然テープの無駄使いになりますからね。

ちなみに当初βは1時間しか録画できませんでした。これは
それまでの家庭用スタンダードであった4分の3インチテー
プを用いた「Uマチック」(1980年代半ばまではNHK
や民放などでも広く使用されていた)が最大1時間録画であ
ったという事を踏まえてのことですが、この高品位な画質(
当時)に匹敵する小型家庭用としての位置付けがあったため
1時間対応ということで世に出たわけです。

でもこれは「β−1」(ベータ・ワン※本当はローマ数字)
というやつでして、後にビデオマニア垂涎の高画質モードと
して長い事君臨するわけです。また、放送業務用として世界
のスタンダードになった「β−cam」(ベータ・カム)も
この規格がベースになっています。

さてそこに割って入ったVHS・・。画質が悪いのを棚に上
げて、なんと2時間対応で出しちゃいました。うーん、ここ
ら辺のマーケッティングはさすがに上手い。レンタルビデオ
出現前のことですから、当然テレビの「映画劇場」は大変な
人気。エアチェックが重要だったこの頃。2時間対応は魅力
的です。(でも画質は劣るのです)

当然βも2時間対応になりました。「β−2」(ベータ・ツ
ー※本当はローマ数字)であります。後にこれがβの標準モ
ードになるわけですが、ここで画質の差が明らかになりまし
た。「βの画質がいいのは、β−1だからでしょ」と言って
いた似非ビデオマニアが驚きました。VHSよりβ−2の方
が遥かに画質がいい!

長時間競争は続きました。VHSの3倍モードです。今でこ
そそこそこ使える3倍モードですけどね、最初は酷いのなん
のって。「一応録れますよ。でも3倍ですからね」ってコレ
電器屋の口癖です。当時テープもボロでしたから、まともな
規格とは思えなかったですね。

それに引き換え、出ました!「β−3」(ベータ・スリー※
本当はローマ数字)・・。画質・・・いい!・・。VHSの
3倍モードの数倍はいい!・・。今でも見て思いますが、V
HSの標準モードと比較してもそう遜色ない画質です。(多
少ノイズはのっかりますが、テープが新品なら何の問題も無
い)

こうやって検証していきますとね。VHSを作った男達にド
ラマが無かったとは言いませんが、物凄い技術であったにも
関わらず、それが世界のスタンダードに成り得なかったとい
うその舞台裏にこそ本物のドラマがあるような気がしてなり
ません。

かく言う私は、高校3年の時、魚屋でバイトした金で198
0年に最初のビデオデッキを購入しました。VHSでした。
(ひゃーーー!!)

そうです。私は裏切り者なのです。

だってぇ、絶対ぃレンタルビデオがぁ流行してくるという確
信があったしぃ、ビデオパッケージの大きさ的に見てもぉ、
VHSの方が目立つしぃ、だいいちぃVHS陣営のメーカー
ってぇ商売上手が多いじゃん・・ぶつぶつ。・・ともかくβ
は没落していくって思ったんだもーん!!

と逆ギレするほどの見事な裏切りっぷりを見せてやったのさ。

ちなみにオーディオビジュアル志向の友人達は皆β派でした。
私がVHSに転んだと聞き、失望と憎悪の炎を燃やしたこと
でしょう。(笑)

でもね。魂は売ってはいません。実は未だにβ派なのよ私。
そう。SONYが「これからVHSを販売していきます」と
事実上の敗北宣言を出したその日、私は2台のβ機を購入し
ました。もう15年も前のことですがね・・。

その時、VHSに転んだと言って私を非難した連中は全員V
HSに転んでました。多分今もVHSに浸っていることでし
ょう。でも私は違う、私にとってVHSはただのサポート機
でしかないのです。わっはっは。
(実はちょっと哀し気だったりする)


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